『コーチ論』      

 (織田淳太郎・著/光文社)

(岡山県・おぐらだいすけ)

光文社新書からは『捕手論』に続いての2冊目の刊行となった。今回は、新しい理論をふんだんに盛り込んだ、野球を軸にしての総体的なコーチングテキストである。

今に始まったことではないが、コーチの役割は指導者ということであるが本来のcoachの意味は馬車の客車、つまり目的地まで運ぶための乗り物である。これはどういうことかというと、コーチというのは目的を達成できる物でなければ意味がないということ。そんなん当たり前じゃないかという声が挙がりそうだが、実際目的を達成できないコーチングがいかに球界を跋扈してきたかをこの本で目の当たりにして、慄然としたものである。

現にかつては水泳はだめ、水分を取ってはだめ等々、野球に必要な物は高度な技術が求められているにもかかわらず、アナクロな面が相当支配的だったのはつい最近まであったのではないだろうか。実際、プロ野球のトレーニングコーチですら筋トレの正確な知識を持ち合わせていないことがあるという。

また、実際コーチングに限らないが、自分の成功体験を人に押しつけるという悪し弊害もまだまだある。勿論、それ自体は一つのスタイルを提示する事という点において否定はしないが、個々の特性を無視した物になると問題であるという事には違いない。横浜から西武へ移籍して開花したといわれているデニー投手の場合は、高橋直樹氏に変わる機会を作られた物であるらしい。また、巨人・原辰徳監督も特定の物に拘らない柔軟な姿勢も指導者としての方向性に新風を吹き込んだとも言える。

その原監督に主力として見いだされた桑田真澄投手や、桐朋高校バスケ部を強豪に導いたきっかけを作ったのが、古武術の甲野善紀氏の身体操作法。ここで書評という性格上もあり、詳しく言及することは避けるが、精神性に主眼をおいた武道に対し懐疑的だったそのスタイルが、これからのスポーツに新しい流れを作る原動力になるのではないだろうか。

このほかにも、手塚一志トレーニングコーチの打撃のうねり理論など新しい理論の提示は枚挙にいとまがない。物事に柔軟に取り組むべき必要性と日々の研究が大事であるかを教えてくれている。やってみてこれほど難しいこともまた無いのだけれど。

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