外国人選手の登録名に関する考察

(東京都・むさし)

外国人選手の名前は、日本人にとって発音しにくかったり、字数が多くなったりという事情から、本名とは別の呼称が使われることがある。このコーナーはその外国人選手の「登録名」についてタイプ別に分類したものである。

 

1.苗字短縮型

まず、字数が多くなってしまう際に単純に短縮してしまう例として、2年連続首位打者をとったこともあるブルーム<ジャック・ブルームフィールド/Jack Bloomfield>(以下<>内は本名)(1960〜64近鉄、65〜66南海)があげられる。

意外とこの単純短縮型は少なくて、他にパーム(1963大毎)<エドワード・パームクエスト/Edwin Lee Palmquist>、モンテ<リッチ・モンテレオーネ/Richard Monteleone>(1995中日)、グルン<アル・グルンワルド/Alfred Henry Grunwald>(1962大洋)、ティロット<サッド・ティロットソン/Thaddeus Asa Tillotson>(1971南海)、クレス<マイク・クレスニック/Michael Krsnich>(1963〜65大洋、66近鉄、67阪神)、アスプロ<ケン・アスプロモンテ/Kenneth Joseph Aspromonte>(1964〜65中日、66大洋)くらいか。

また末尾の一文字だけ短縮された例としてはサンチェ<ルイス・サンチェス/Luis Mercedes Escoba y Sanchez>(1986〜87巨人)、ミューレン<ヘンスリー・ミューレンス/Hensley Meulens>(1994ロッテ、95〜96ヤクルト)、ウイリアム<ジミー・ウィリアムズ/Jimmy Williams>(1973〜74中日)がある。

そして面白い例としては、苗字のアタマの部分をカットしたバークレオ<タイラー・バンバークレオ/Tyler Lee Van Burkleo>(1987〜90西武、91広島)とバウアー<ディック・メイバウアー/Dick Maibauer>(1961東映)がある。


2.苗字変形型

多いのが苗字(ファミリーネーム)を少し変形するという例である。

広島の初優勝に貢献したシェーン<リッチー・シャインブラム/Richard Alen Scheinblum>(1975〜76広島)、同じく広島で本塁打王をとったランス<リック・ランセロッティ/Richard Anthony Lancellotti>(1987〜88広島)などがその例。

他にはウィッグス<リチャード・ウェリグマン/Richard E. Wieligman>(1990阪神)、ウィンディ<ゴーディ・ウィンドホーン/Gordon Ray Windhorn>(1964〜69阪急)、ジムタイル<ジム・ジェンティル/James Edward Gentile>(1969近鉄)、、バーマ<エド・バウマー/James Sloan Baumer>(1963〜67西鉄)、バビー<ジム・バービーリ/James Patrick Barbieri>(1970中日)、ピート<バディ・ピーターソン/Carl Francis Peterson>(1961〜63南海)、マック<ジム・マクマナス/James Michael McManus>(1962〜63大洋)、スピリー<ライアン・スピルボーグス(Ryan Adam Spilborghs>(2013西武)などが挙げられる。

またバース<ランディ・バス/Randy William Bass>(1983〜88阪神)も本来の発音から言えば「バス」とするべきだが、「ポンコツ阪神バス」と言われるのを恐れてか「バース」となった。そしてダットサン<ジーン・ドットソン/Gene Dotson>(1982南海)も「どっと損」につながるからか登録名が変えられた。でもこれは当時の監督がブレイザー(後出)だったことから、より英語の発音に近付けたというのもあるようだ。そして自動車のダットサンにもあやかったのかもしれない。

通算100勝を挙げたバッキー<ジーン・バケエ/Gene Bacque>(1962〜68阪神、69近鉄)は、「バケエ」だと「バカ」とニュアンスが似ているという理由で「バッキー」となったという。そしてマニー<フランク・マンコビッチ/Frank Mankorvich>(1962大毎)はさすがに本名での登録は躊躇われたのだろう(笑)。最近ではドリスキル<トラビス・ドリスキル/Travis Corey Driskill>(1998ヤクルト)が当初ドリスキーという登録名だったのも思いだされる。

それと、これは次項の「名前型」になるが、アレックス<アレックス・オチョア/Alex Ochoa>(2003〜06中日、07〜08広島)も「オチョア」だと「オッチョコチョイ」みたいだという理由で「アレックス」になった。さらにデビッド<デビッド・ホステトラー/David Alan Hostetler>(1986〜87南海)は「ホステス」を連想をさせるという理由で名前での登録になったらしい。どうもこういう傾向は西日本の球団に多いようだ。


3.名前型

次に苗字ではなく名前(ファーストネーム)のほうを登録名とする例。

西武初期黄金時代のテリー<テリー・ウィットフィールド/Terry Bertland Whitfield>(1981〜83西武)、スティーブ<スティーブ・オンティベロス/Steven Robert Ontiveros>(1980〜85西武)はともにこのケース。

また、レオン<レオン・リー/Leon Lee>(1978〜82ロッテ、83〜85大洋、86〜87ヤクルト)が来日した時、実兄のリー<レロン・リー/Leron Lee>(1977〜87ロッテ)が既に在籍していたため、「リー弟」という表記になるのかと筆者は当時ひそかに思っていたが、結局ファーストネームがそのまま登録名になった。

そしてミゲルミゲル・メヒア/Miguel Mejia>(2015〜西武)は、既に同姓のメヒア<エルネスト・メヒア/Ernesto Antonio Mejía>(2014〜西武)がチーム内に在籍してたためファーストネームでの登録となった。

他にはマリオ<マリオ・ブリトー/Mario Brito>(1996巨人)、グレン<グレン・デービス/Glenn Davis>(1995〜96阪神)、マックス<マックス・ベナブル/William McKinly Venable Jr.>(1992〜93ロッテ)、そして高見山(東関親方)のいとこのフレッド<フレッド・クハウルア/Fred Mahele Kuhaulua>(1978中日)等多数ある。

ちなみにロバート<ロバート・ウィッシュネフスキー/Robert James Wishnevski>(1997西武)は苗字で登録していたら10文字になり、最長登録名となるところだったので残念だ。最長というと<ウェス・オーバーミューラー/Wesley Mitchell Obermueller>(2006オリックス)は本来9文字だが、長過ぎるという理由でオバミュラーという登録名となった。

参考までに今のところ最長はアイケルバーガー<ホアン・アイケルバーガー/Juan Tyron Eichelberger>(1989ヤクルト)、ディステファーノ<ベニー・ディステファーノ/Benito James Distefano>(1990中日)、マッキントッシュ<ティム・マッキントッシュ/Tim Macintosh>(1995日本ハム)、シュールストロム<エリック・シュールストロム/Erik Shullstrom>(1998〜99日本ハム、2001〜02広島)、ハートグレイブス<ディーン・ハートグレイブス/Dean Charles Hartgraves>(1999ロッテ)、ファルケンボーグ<ブライアン・ファルケンボーグ/Brian Falkenbprg>(2009〜13ソフトバンク、14〜楽天)の8文字。

であったが、2010年にフィオレンティーノ<ジェフ・フィオレンティーノ/Jeffrey Philip Fiorentino>(2010広島)が9文字で記録を更新した。ただし長過ぎるため、スコアボードの表記など実際には「フィオ」という呼称を使うことになった。

なお余談だが、ドミニカ・カープアカデミー出身のラミーレス(1995〜96広島)のフルネームは<フェリックス・アントニオ・ラミーレス・ロドリゲス>とやたら長い。これはスペイン語圏では父母の姓の繋げる習慣があるためのようだ。

またアジア系の外国人としては義信<陳義信>(1989〜90中日)、インチェ<林英傑>(2006〜2008楽天)などの例が。そして外国人選手扱いではないが大豊<陳大豊>(1989〜97中日、98〜2000阪神、01〜02中日)、その弟の大順<陳大順>(1991〜92ロッテ)もその一種とみていいかもしれない。ちなみにイチローなど日本人選手にもこのパターンが多い。


4.名前変形型

名前の変形としてはウィン<エドウィン・ハタド/Edwin Amilgar Hurtado>(1998〜99オリックス)がいる。そしてデビット<デビッド・パブラス/David Lee Pavlas>(1997巨人)は、末尾の濁音が何故か清音に変形した変なケース。

余談だがデビッ「ド」も2人いる。前出の<デビッド・ホステトラー>と<スコット・サービス/Scott David Service>(1991中日)。後者は「サービス」では相手チームにサービスをするという意味で良くないという理由と、「スコット」だと当時同じチームに<スコット・アンダーソン/Scott Richard Anderson>という選手がいたのでミドルネームの「デビッド」を登録名にしたものと思われる。


5.名前+苗字型

これは短縮型とは逆に、わざわざ長い登録名にした例。

バンスロー<バンス・ロー/Vance Aaron Law>(1990中日)、タイゲイニー<タイ・ゲイニー/Telmanch "Ty "Gainey>(1993〜94オリックス)、テリーリー<テリー・リー/Terry Lee>(1983近鉄)、マットホワイト<マット・ホワイト/Matthew Joseph "Matt" White>(2007〜08横浜)、カルロス・ロサ<Carlos Mayi Rosa>(ロッテ2011〜)の5例がある。

バンスローは当初「ロー」という登録名になるはずだったが、それだと「低い・下がる(Low)」という意味から「低成績」につながるということで登録名を長くしたらしい(本当は「LAW」という綴りだが)。

タイゲイニーは球聖タイ・カップにあやかったもの。テリーリーは、当時他チームにテリーリー(ともに前出)がいたためにこんな登録名になったものと思われる(あるいは2人分の活躍を期待したのかも?)。ちなみに当初は登録名があいまいで「T・リー」などとも表記されていた。

登録名があいまいといえば、クローマー<デビッド・トーマス・クローマー/David Thomas Cromer>(2002〜2003日本ハム)が「DTクローマー」と表記されたことが、そしてカラスコDaniel J.Carrasco>(ソフトバンク2006)も「D・J・カラスコ」と表記されたことがあった。

また、日系ブラジル人選手のユウイチ<ユウイチ・ダニエル・マツモト>(1999〜ヤクルト/2004年より日本人扱い)、ツギオ<ツギオ・レオナルド・サトウ>(1999〜2003ヤクルト)の登録名も入団初年度は「ユウイチ松元」「ツギオ佐藤」と表記されることがあった。そしてウッズ<タイロン・ウッズ/Tyrone Woods>(2003〜04横浜、2005〜2008中日)もプロゴルファーのタイガー・ウッズにあやかって「T・ウッズ」と表記される場合がある。

さらに2007年には中日にラミレスという同姓の外国人選手が在籍。そのため一方はS・ラミレス<サンティアゴ・ラミレス/Santiago Ramirez>(2007中日)、もう一方はE・ラミレス<エンリケ・ラミレス/Henrique Ramirez>(2007中日・育成)と区別して表記された。


6.ニックネーム型

この例にはのちにタレントとしても活躍したアニマル<ブラッド・レスリー/Bradley Jay Lesley>(1986〜87阪急)(ちなみに芸名は「亜仁丸レスリー」だった)、三冠王もとったブーマー<グレッグ・ウェルズ/Gregory DeWayne Wells>(1983〜91阪急・オリックス、92ダイエー)、阪神と南海で監督をつとめた「燃える男」ブレイザー<ドン・ブラッシンゲーム/Don Lee Blasingame>(1967〜69南海)、「弾丸」の意のブレット<ボブ・レイノルズ/Robert Allen Reynolds>(1977大洋)、「勇敢」というような意味らしいスパイク<ランディ・レディー/Randy Max Ready>(1996ロッテ)、旧約聖書からその名をとったサムソン<李尚勲>(1998〜99中日)、「オーストラリア産の野犬(英和辞典には「ろくでなし」「臆病者」という訳もあるが)」ディンゴ<デビッド・ニルソン/David Wayne Nilson>(2000中日)など。なお、ニューク<ドン・ニューカム/Donald Newcombe>(1962中日)は苗字変形型かと思っていたが、これはニックネームだったようだ。

そして、これは実現しなかったのだがシピン<ジョン・シピン/John White Sipin>(1972〜77大洋、78〜80巨人)が大洋時代に、ユニフォームの背中のネームを「ライオン丸」にしようと計画したことがあった。

また、ディアズ<マイク・ディアズ/Michael Anthony Diaz>(1989〜92ロッテ)が来日した時には、「ランボー」での登録が検討された。そこで映画「ランボー」の日本での配給権を持つ「東宝東和」との話し合いが持たれたが、一説によると数千万円の商標権使用料を要求されて断念せざるを得なかったようだ。

ちなみに日本人選手でこの例はパンチG.G.佐藤がある(1999年にオリックスからヤクルトに移籍した高橋智が「デカ」と名乗るという話もあったが見送られた)。


7.イニシャル型

ここ最近出てきたケースがこれ。D・J<ダグ・ジェニングス/James Douglas Jennings>(1995〜97オリックス)、C・D<クリス・ドネルス/Chris Barton Donnels>(1996近鉄、97〜99オリックス)、JP<ジェレミー・パウエル/Jeremy Powell>(オリックス時代の2005のみ)、GG<ジェレミー・ゴンザレス/Geremi Gonzalez>(2007巨人)の4例がある。

GGのケースは、原則的に登録名を認めない巨人ながら、同時にパウエル<ジェレミー・パウエル>とゴンザレス<ルイス・ゴザンレス/Luis Alberto Gonzalez>(巨人2007〜2008)が在籍していたため、例外的に登録名が採用された。

また、カタカナ表記ではあるが、ジェイジェイ<ジェイソン・ジョセフ・ファーマニアック/Jason Joseph Furmaniak>(2008横浜)も同タイプと言えるかもしれない。


8.漢字型

さらに変わったところでは漢字の当て字によるものがある。「王の上を行け」と命名された王天上<フランク・オーテンジオ/Frank Joseph Ortenzio Jr.>(1979〜80南海)、そして戦時中に強制的に改名させられた須田博<ビクトル・スタルヒン>(巨人時代の1940〜44のみ)のケースがある。

また、オリックスが2009〜2012年の「大坂夏の陣」シリーズにおいて、外国人選手のスコアボード表記を漢字表記にしたことがある。例として<タフィー・ローズ/Karl Derrick "Tuffy" Rhodes>(1996〜2003近鉄、04〜05巨人、07〜09オリックス)を狼主、<アレックス・カブレラ/Alexander Alberto Cabrera>(2001〜07西武、08〜10、オリックス、11〜ソフトバンク)を亜力士、<フェルナンド・セギノール/Fernando Alfredo Seguignol>(2002オリックス、04〜07日本ハム、08〜09楽天、10オリックス)を関乃流など参考


9.Jr.型

ラミレスJr<アレックス・ラミレス・ジュニア/Alexander Ramirez Jr.>(2005〜07ヤクルト)が1例目。義理の父親であるラミレス<アレックス・ラミレス/Alexander Ramirez>(2001〜07ヤクルト、08〜11巨人、12〜13DeNA)と区別するためこんな登録名に。

このタイプはバーナム・ジュニア<ゲイリー・バーナム・ジュニア/Gary Robert Burnham Jr.>(2009ロッテ)で2例目。これは本人の希望によるものらしい。そして3例目はグリエルJr.ルルデス・グリエル/Lourdes yunielkis Gourriel>(2015DeNA)。これは兄のグリエル<ユリエスキ・グリエル/Yulieski Gourriel>(2014DeNA)と区別するためであったが、結局1回も来日せずに退団した。

 

最後に、おまけとして在日中に登録名が変更になったケースを以下にあげよう。

<ロジャー・レポーズ/Roger Allen Repoz>がレポーズ(1973太平洋)ロジャー(74〜77ヤクルト)。
<ゲーリー・ジェスタッド/Garry Arthur Jestadt>がジェスター(1975日本ハム)ゲーリー(76大洋)。
<ジェリー・ホワイト/Jerome Cardell (Jerry) White>がジェリー(1984西武)ホワイト85大洋)。
<ドミンゴ・グスマン/Domingo Guzman>がグスマン(2002横浜)→ドミンゴ(03横浜、04〜06中日、07〜08楽天)。
<ジェレミー・パウエル/Jeremy Powell>がパウエル(2001〜04近鉄)→JP(05オリックス)→パウエル(06〜07巨人、08ソフトバンク)。
<リック・ショート/Richard Ryan (Rick) Short>がショート(2003ロッテ)→リック(06〜09楽天)
<ジェイソン・スタンリッジ/Jason Standridge>がスタンドリッジ(2007〜08ソフトバンク)→スタンリッジ(09〜13阪神、14〜ソフトバンク)など。

そして何度も変えたのは前出の<クリス・ドネルス>のC・D(1996近鉄)ドネルス(97オリックス)C・D(98オリックス)ドネルス(99オリックス)というのがあり、また<フランシス・アグウィリー/Francis Agcaoili>にいたってはアグウィリー(1962〜64大洋)アグリー(65西鉄)アギー(66西鉄)アグウィリー(67〜68大洋)アグリー(69阪急)と、めまぐるしく変えている。


※アルファベットの綴りは「CDプロ野球人名事典2001」(森岡浩・編著/日外アソシエーツ)を主に参考にした。

 

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