隠し球ガンさん』 

(木村公一・作、やまだ浩一・画/文藝春秋社ビンゴコミックス全4巻 )

(ふさ千明)

このマンガは以前、『週刊ベースボール』に連載されていたが、さらにその前に『コミック・ビンゴ』(文藝春秋社) という雑誌に連載されていたことをご存じだろうか。あまり知られることもなく休刊になってしまった雑誌ゆえ、ご存じ無い方が大半と思われるが。

『ビンゴ』には江川卓を扱った「実録 たかされ」も連載していたことがあり、今思うともう少し注目すべきだったかも知れないと、今になれば思う。 この単行本は週刊ベースボール版ではなくそのコミックビンゴのほうの単行本である。

この単行本全4冊、何度読んだか分からない。引き込まれると言うか何と言うか。 この物語でしか味わえない何かが、私を引きつけ続けているのである。

この物語は、スカウト生活35年のベテランスカウト、ガンさんこと岩間源太郎の全国行脚と活躍の記録である。 その岩間源太郎はいわば名医である。選手を獲得することが仕事であるが、彼の行動はそのことに縛られない。スカウト部長に「行くな」と言われても、自らが行かねばと思えば平気で足を向ける。

そして出会う人々の抱えた様々な問題に対して、彼独特の哲学に基づいて処方箋を提示する。皆何か光る物を抱えつつも、何かの理由で悩み、苦しんでいる選手たち。そんな彼らに声をかけ、悩みを聞き、独特の理論と方法で叱咤激励するのである。

金属バットと木製バットとの違いに悩む五輪代表選手、怪我の再発を恐れるあまり持ち前の“足”を失ってしまった高校球児、現役に未練を残す後輩スカウト、重圧に耐えかねついにボールを投げられなくなったドラ1候補投手、そしてヤクザ捕手‥ 。ガンさんの足はとどまらない。絶えず回り続ける。

彼の投げかける言葉には、その一つ一つに響くものを感じる。それは高度な技術論に裏打ちされつつ、その上で野球そのものへの想いが込められているから、決して空疎にならないのであろう。

付録として、2巻には広島渡辺秀武スカウト、3巻には元オリックス編成部長の故・三輪田勝利氏と、巻末に実在スカウトの方のインタビューが載っているのも嬉しい。

書店に並んでいることはほとんどないようだが、まだ注文すれば手に入るようので、興味を持たれた方はぜひ取り寄せてみていただきたい。

「コミックビンゴ」1996年6月号から1999年2月号まで連載
1〜3巻・533円、4巻590円(いずれも本体価格)

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