『遥かなる甲子園―大分県立日田三隈高校野球部』
(井上光成・著/有限会社海鳥社)
(岡山県・おぐらだいすけ)
ここの野球部自体、夏の大会32連敗という日本記録を持っていること以外には、特に珍しいというものではないと思う。
休部状態の野球部の人集めから始まる再建、度重なる敗北、チームの底上げ、夏の大会、新チーム、敗戦、オフシーズンの鍛練……。これらの繰り返しの中にも人の入れ替わりがあって、毎年毎年違うドラマが生まれ、一つとして同じ出来事は無い。
その中でも、「チーム全体が集団として機能して行く中で成長する過程を線として見ていただきたい。」とあったが、個々の選手は点でしかないが、線としてみていくと力が付いてきて、そのプロセスは一人歩きして記録となり、伝統となるということなのだろう。
本書は5年間の記録と、新チームの秋の戦績をあとがきにして書かれているが、「一番の収穫は敗者から『よくやった』の声が出なかったこと」とある。勝負をするものが自分を慰めるようになったら進歩がないわけで、自らを省みて次に臨むことの大切さがわかる。
なんだか訓話めいた話になってしまったが、人生の中で本書の野球部の様に、全力で人生の一部を駆け抜けた時期のある人にも、そうでない人にも読んで貰いたい必読書。