『ただ栄光のためにー堀内恒夫物語』
(海老沢泰久・著/新潮文庫)
(東京都・マー)
松坂投手の活躍で堀内のルーキー時代の成績が取りあげられることがある。しかしあまり目立たない感じだ。巨人でエースとして現役生活を送ったのに。やはり生意気なイメージが強いのだろうか?
「悪太郎」、「甲府の小天狗」などといったニックネームは変わっていておもしろい。それだけの個性を持っていたのだろう。巨人らしくない。
本書は子供の時から引退までの話だが、とにかく素質も運も度胸もある、プロになるべくして生まれた男ということがわかる。試合だけでなく、プライベートもすごい。
だが一番興味深いのは当時の巨人内部の話である。川上、王、長嶋、土井などと堀内の話は今読んでも笑ってしまうほどおもしろい。最近はどちらかといえば「出る杭は打たれる」世の中である。当時もそうだったかもしれないが、それでもスターという存在が許された時代だったのではないかと思う。
当時はスターと一般人の間にはっきりとした壁があった。でも最近は「普通っぽい」ほうが受けが良い。もし今の世の中に堀内のような選手が出現したらどうなるのだろう。
堀内はよく言ったという、
「野球をやるなら何といったってピッチャーだね。電車や飛行機はおれが乗らなくたって時間がくれば出発してしまうが、野球はおれが投げなきゃはじまらないんだ」
と。今こんなセリフが似合う投手がいるだろうか?
堀内のこの自信や強気は江川に受け継がれたと思う。でもそこで途切れたままだ。悪役イメージだけならガルベスも負けていないが。この後継者が巨人に現れた時、また巨人の黄金時代が来る!と信じたい。
引退試合の前夜、堀内は家族と外食に出かけて子供に引退することを話した。すると娘はこう言ったという。
「パパ、やめたら何になるの?チャルメラやってよ」
次の日の引退試合、奇跡的にまわってきた打席でホームランを打ったのは有名な話である。