神様、仏様、稲尾様      

 (稲尾和久・著/日本経済新聞社)

(岡山県・おぐらだいすけ)

日経新聞のマンスリー連載である「私の履歴書」の単行本化である。言い尽くされている感はあるものの、「野武士」と形容された西鉄ライオンズの大黒柱が語った「とびきり奔放で痛快な自分史(本書オビ)」。

「かけた時間と汗の量だけがモノをいうことがこの世に絶対にある」握力の鍛練のために始終ボールを握ることが、指先の感覚を研ぎ澄ますというのは絶対であるということを当たり前のことではあるが再認識させられた。

今から見ると、狂気の沙汰のように見える連投の日々であり、又その周りの人々の一挙手一投足も喝采を送りたくなるような活躍があって、西鉄の黄金時代を彩なしていたことが良くわかる。

ただ、私の斜に構えている性格からなのか、成功したとはいえない監督時代に言及しているところに非常に興味を持って読ませて貰った。

「体育会的社会の弊害で、いいことも悪いことも仲間に広がり、見て見ぬふりということになりやすい。(抄)」川上巨人軍監督に叱咤され「不幸な出発を理由に逃げ道を探していた自分が恥ずかしかった」事など監督時代の苦悩が赤裸々に綴られている。こうしたことは稲尾氏のみならず、多かれ少なかれ人間の抱えている悪い点ではあるなと思い当たり、心の壁にちくちくと突き刺さる。

また、人の評価は当事者と見ている人とではまるっきり違うなということも再認識させられた。三原監督の人への厳しさ、星野仙一氏のショーマンシップ、落合博満の野武士軍団の香り漂うプロ魂等。戦後の復興、成長の一端を検証する意味でもこの書は必見。

 

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