明治五年のプレイボール 初めて日本に野球を伝えた男ーウィルソン      

 (佐山和夫・著/日本放送出版協会)

(岡山県・おぐらだいすけ)

21世紀初の夏の甲子園大会開会式において、彼らの縁者が招かれ表彰されたことから、この話は始まる。この出来事は、朝日新聞の特集記事になっていて、そのときはそれ(野球を伝えた)だけの感想しか持たなかったのだけど、読んでみるに従い鱗が落ちること度々だった。

まず、彼や他にも日本へ野球を広めることに関わったアメリカ人は南北戦争に関わっていて(考えてみなくてもわかることですが、日本史と世界史と分かれているととんと横のつながりには疎くなるようで。これはいいわけだ)、野球というスポーツ自体が南北戦争によって広がったということ。野球を知る少数の兵士が、他のものたちに教え、それがだんだん兵士の娯楽や軍の奨励スポーツとして広まっていった(蛇足参照)という。

そしてウィルソンも青春まっただ中の十代後半から二十代前半をその中で過ごし、リンカーン大統領も野球に興じたことがあったというから、あっという間にメジャーなスポーツになったといえるだろう。

このほかにも、日本のアマチュア野球の発達の歴史について論じていたり、日本独特のストライク先行のカウントコールについての考証や、他の日本野球に関わった外国人(クラーク博士や、野球道具メーカーの祖のスポルディングなど)についての考察などが書かれているが、最後には、いまだ彼が殿堂入りしていないのは忘恩の徒と日本人自身が標榜しているのと同じであると慨嘆している。

私自身が加えて感じることは、ここまでアメリカに次いで長いであろう野球の歴史を持っていながら、未だアメリカだけに世界選手権を名乗らせている現状を大いに嘆かなければならないのではないかということだ。日本選手のメジャー入りということ以前に、このことを真剣に考えなければならないのでは? 今からでも遅くない。日本一になった球団は、メジャー球団に果たし状を突きつけるべきである。

 

<蛇足> 戦場で野球を広めたという小説で、志茂田景樹が『戦国の長嶋巨人軍』があり、野球が戦場で広まったイメージがふくらむかも知れない。ストーリーは選手強化のため自衛隊の訓練に参加した(この設定自体もう端から無理矢理なのだが)長嶋巨人軍の面子が富士山麓での演習中にタイムスリップして桶狭間の合戦に巻き込まれ、織田信長の天下取りに尽力しつつ野球を広めるという話。もう荒唐無稽もいいとこであるが、プリティ長嶋と布施辰徳あたりに出演したドラマとしてみたかった気がする作品ではある。全くの蛇足もいいところである

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