大阪球場の破片

(東京都・武蔵 郷司)

98年の8月下旬のある日、私は大阪に居た。その日はジャンジャン横丁で飲んだあと、ひとりフラフラと難波まで歩いて行き、何気なく大阪球場へ向かった。もうすぐ解体されるというので「見納め」ようと思ったのだ。

球場に近づくと何故か、やけに賑やかだ。何事かと思いよく見ると、なんとグラウンド内でビヤガーデンをやっていた。看板を見ると「さよなら大阪球場」のイベントということらしい。私も入ってみようと思ったが、係員に聞くと完全前売制でチケットはすでに売り切れだとのこと(ビヤガーデンに前売りというのが有るものなのか?)。

そして翌日の夕方6時半ころ、今度は関西在住の友人とともにまた大阪球場に行ってみた。当然ながらチケットは売り切れで、キャンセル待ちでも8時頃にならないと無理だといわれた。

しかたないので諦めて帰ろうとしたが、よく見ると入口のところで南海ホークスグッズを売っていた。おそらくこのイベントのためにわざわざ制作したのだろう。私はさっそく帽子と団扇、さらには「大阪球場の砂」というものまで購入してしまった。

結局、難波の居酒屋で飲んだあと再び大阪球場の前を通った。すると、かつての南海ホークス応援団らしき人たちがトランペットを吹いたり旗を振ったりして騒いでいた。

そしてその中のひとりは同行の友人の高校時代の同級生であった。その彼はホークスファンが昂じて南海電鉄に入社したという。友人とは18年ぶりの再会だそうだ。

そして11月なかばのある日曜日、私はまた大阪に行く機会があった。そして数日前に大阪球場の解体が始まったというニュースを聞いたので、難波に行った際にちょっと見にいってみた。

球場の外壁にはすでに工事用のフェンスが張られていた。そしてその隙間から中を覗くとスタンドの一部はもう壊されていた。しかし場外馬券売場として使われている部分はまだ健在で、この日も多くの人出であった。

そして中に競馬グッズの売店が有り、そこに何気なく目を向けると、片隅に南海ホークスグッズが置いてあるではないか。しかも先日とは違う商品もあった。

その中の球団旗を眺めていると、ビールを片手に持ったオッチャンが寄って来て「わし、この旗むかし振っとったんよ」と言った。どうやらこのオッチャンもかつての応援団らしい。私は結局また球団旗、Tシャツ、下敷きなどのグッズを買ってしまった。

帰り際にまだ解体されていないスコアボードを見上げてみた。そこには88年10月15日の南海−近鉄最終戦のスコアが掲示されていた。角度の関係で近鉄の選手名しか見えなかったが「オグリビー」や「真喜志」という懐かしい名前があった。

解体は2002年までかかるそうだ。

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