7月14日 ロッテ−西武
(千葉マリンスタジアム)

(千葉県・ふさ千明)

〜Who is ‥‥でいっぱいのスタジアム

所用で昼間研究室に行き、そこから直接球場へ向かう。海浜幕張駅で下車し、マリーンズボールパークで来場ポイントが溜まった特典の特製ピンバッジを受け取ってから、送迎用バス『マリーンズ号』に乗り込む。急いだ甲斐あって運良く座れた。全ての座席が埋まってからもどんどん人が乗ってくる。

まだ開場前なのだが、なかなか順調な出足だな、などと思っていると、子供二人を連れた母親が乗ってきた。一人の手を引き一人は抱きかかえ、非常に難儀そうだったので私は席を譲ることにした。手を引かれている少女は、ロッテのホーム用ユニフォームを着ていた。しかもそのそこかしこには選手のサインが書き込まれているではないか。

嬉しくなった私は「すごいねぇ」と声をかけてみた。すると少女は嬉しそうに首から下げていた写真を見せてくれた。「ウォーレンがね、一緒に写真を撮ってくれたんだよ。順奈なのに『ジュナ、ジュナ』って呼ぶんだよ」

見れば、精悍なひげ面の守護神が、目の前の少女を膝の上に載せ、にこやかに笑っていた。「名前覚えてもらったんだね。良かったねぇ」「うん」

その後も少女はユニフォームのサインの一つ一つを指しては、いつ、誰に書いてもらったか、そしてその時どんなやりとりがあったかを話してくれた。バスが球場に到着し降りる際に「じゃあね」と声をかけると「またねー、お兄ちゃん」と手を振ってくれた。

券を買うべく『カモメの窓口』前に向かうと、手前に「指定A席ファンクラブ割引2500円を2000円に」の看板が。粋なサービスか、はたまたそうまでしなければ客が入らないのか。どちらにしろ心惹かれ、あとからやって来る友人に連絡。彼は内野自由席招待券を持っていたため多少渋ったがそれでも了承を得て購入。

合流までの待ち時間ぼーっとしていると、おめかししたマー君リーンちゃんズー君が現れた。子供に捕まってサインやら握手やらをせがまれている。また、常連らしき女性客と再会のハイタッチをしたりもしている。

そうこうしているうちに友人が到着。合流して中へ。入って球場全体を見渡すと、毎度の事ながら3塁側がスカスカ。「何とかなんないかねぇ、あれ」思わずため息。食べ物の買い出しだなんだで時間が過ぎていく。試合開始もまもなくかな、という頃「We love Marines」にあわせて踊るマスコット3人衆&少女5人組がグラウンドに。

何でもデビュー直前の歌手グループらしいのだが、しっかりした紹介もないので結局「誰?」で終わってしまう。グリーンスタジアム神戸のようにDJが先発オーダーを英語で発表。このままいくのかと思ったら、試合中はいつも通りウグイス嬢がやっていた。

この日の先発はマリーンズがノット。ライオンズが青木勇人。ノットは来日2試合目。青木はルーキーでこれが初先発。「谷間」といってしまえばそれまでだが、先が読めない点期待と不安があって楽しみとも言える。

一回表、いきなり先頭の大友がライト前ヒット。ノットはボールが先行していて、いかにも危なっかしい。2番高木大成が倒れ、3番松井のショートゴロでランナー二塁へ。4番フェルナンデス。ライオンズいきなり先制のチャンス。ノットにとっては、いきなりの試練。

一球目をフェルナンデスが強振し、ボールは後方へ。ファウルだとおもったが、ランナーは三塁まで進んでいる。どうやら空振りした球をキャッチャーが逸らしたらしい。あからさまな自滅のパターンに不安が高まる。相変わらずボール先行の投球だが、フェルナンデスの当たりは勢いのないライトフライ。チェンジ。

ライオンズ青木勇が投球練習をしているのを見て、初めて彼がサイドスローであることを知る。おそらくそういう人が大多数だと思う。彼は小中高と軟式、大学では準硬式で野球をやってきた、いわば変わり種。どんな球を投げるのか。球速はどれくらいなのか。持っていった週刊ベースボール名鑑号によると「140km台の伸びのあるストレートと魔球ナックルが武器」ということだが‥。

なるほど、ストレートの伸びはいい。横から繰り出される腕がしなり、ボールが小気味よくミットに収まる。青木勇の前にマリーンズは一回裏三者凡退。こりゃあ今日はやられたかな、と不安が広がった。

しかし素人の目ほど当てにならない物はない。2回、ノットは三者凡退に切ってとる。一方の青木勇人は先頭のボーリックにレフト前へ弾かれる。続く初芝は打ち取ったものの、福浦センター前、平井にフォアボールで満塁。バッターは橋本。「前監督ならスクイズだろうな、迷い無く」

橋本の当たりは一、二塁間。ファーストの高木大成が飛びつく。止めた。が、ボールはグラブに収まらずセカンドの黒田がフォローするもオールセーフ。マリーンズ、一点先制。続く酒井のタイムリーでさらに1点追加。

なお満塁。押せ押せである。盛り上がる1塁側。ここで諸積。この夜から始まったレゲエイベントのプロデューサーである。いわばこの4連戦の主役の一人。その主役の放った打球はショート松井のグラブへ。併殺でスリーアウト。最後が盛り下がったが、まず2点先行。2-0。

波に乗れノット、との願いはこの回先頭和田のフェンス直撃ツーベースがあっけなく砕いてくれる。続く黒田はランナーを送ろうとバントの構えも、転がせずキャッチャーファウルフライでランナー釘付け。ほっと一息の一塁側。チャンスはまだ続くとばかり、強気の三塁側。

トップに帰って1番大友にフォアボールを与え、いかにも「つかまった」感じのするノット。チャンスに俊足の高木大成。ランナーも劣らず速いため内野ゴロでゲッツーをとるのは至難。さぁ、どうするノット。ここでなんと高木大成空振り三振。続く松井もサードゴロでチェンジ。意外とタフに思えてくるノット。青木勇人も負けじと三者凡退に切ってとり、投手戦。

4回表、先頭のフェルナンデスをライトフライに打ち取ると、続く平塚、垣内に連続フォアボール。鈴木健のセカンドゴロで2死一、三塁。バッターは先ほどフェンス直撃の当たりを放った和田。いよいよか、ノット。この試合、まだ半ばなのに何度こう思ったか。

和田の打球は一、二塁間へ。酒井、必死に止めるも勢いの分処理に手間取りセカンドに投げるもセーフ。セカンド内野安打となり、サードの平塚帰ってライオンズ一点返した。2-1。ここでラストバッターの黒田。2死ゆえに小細工はしにくい。振り抜いたバットから放たれて、打球はライトへ。ライト平井走る走る走る。キャッチ!抜ければ大量点の場面でのナイスプレーに、大きな拍手。

その裏。マリーンズ三者凡退。負けじと5回表、ノットもライオンズを三者凡退に。良いのか悪いのか、本当によく分からないノット。そのノットを盛り立てるのは女房役橋本。その橋本がいきなり左中間にツーベース。続く酒井がバントの構え。そして空振り。ランナー橋本飛び出していてアウト。台無し。やむなく打ち直した酒井がヒットを打ったりするから、なお台無し感増大。

トップに帰って諸積。フォアボールでチャンスを広げる。ここで小坂。バッターも一塁も俊足だからゲッツーは‥、などとさっきも似たようなシチュエーションがあった事を思い出す。先ほどはライオンズ側だったが。この好条件で小坂セカンドゴロゲッツー。何となく台無し感が最高潮に達する。

5回終了して2-1と、なかなかの好ゲーム。整備の間友人とそんなことを話していると、この回と回の合間に300発の花火がライトスタンド上空に打ち上げられるというアナウンスがある。郊外球場ならではの贅沢だ。先ほどの台無し感を打ち払ってあまりある。

球場のすぐ外で打ち上げているらしく音も大きく、迫力満点である。青、赤、黄、緑‥、おまけイベントとは思えない豪華絢爛。この花火に負けない、大輪の花と呼ぶにふさわしいアーチがみたいなぁ‥‥と、どうしても野球から思考が離れない自分に、ちょっと苦笑。

気分一新。ノット、6イニングス目。簡単にツーアウトをとる。とったところで垣内に深々と左中間を破られ、私のノットに対する評価が固まる。すなわち「一貫して不安定」。次打者の鈴木健を打ち取ってスリーアウト。チェンジで、青木勇人の6イニングス目。

先頭の大塚を打ち取るも、ボーリック・初芝に連続ツーベースを食らい、降板。5回1/3で被安打8、3失点。一応形の上ではノックアウトだが、味方が5点とっていれば勝ち投手の権利を得ての、堂々の降板だったかも知れない。そう思うと気の毒ではある。

しかし、彼の素晴らしいストレートの伸びは、遠くない将来彼に勝利をもたらすであろう。そう確信し、一塁側であるにもかかわらず「ナイスピッチング!」と声をかけ、拍手を送った。賛同者がいたのにはびっくりしたが。

後を受けたのは土肥。期待に応え福浦を打ち取る。次打者平井のところで、代打立川が告げられる。土肥は立川を敬遠し、「何しに出てきたんだ〜」と大ブーイングにさらされる。立川が歩くと、橋本に代わって代打バリーのアナウンス。押せ押せの筈だが、簡単にツーストライクを取られてしまう。周囲に広がる失望の空気。

しかしバリーは粘った。臭い球は見逃し、またはカットし、ボールを蓄積して2−3にこぎ着ける。そして「ボール」のコール。バリーはつないだ。タイムリーでも打ったかのような歓声。これで2死満塁。そして今日二安打の酒井が打席に入る。

ここでライオンズはデニー投入。東尾監督のこういう「攻め」の姿勢は好きだ。試合時間は長引くが。酒井の打球はセンターとセカンドの中間地点にふらふらと上がった。これは分からない。そう思ったが、風に流され平凡なセンターフライになってしまった。結局この回1点止まり。3-1。

ライオンズのラッキーセブンを告げるアナウンスと共に応援歌が流れる。レフトスタンド、盛り上がっていると言うにはいささか人数が少ない。もっと来て欲しいと切実に思う。いい試合やってるんだし。

歌が終わって、この回からマリーンズのピッチャーはコバマサこと小林雅英。彼を見てどことなく周囲の空気が弛緩する。確かにマリーンズの必勝パターンではある。先ほどのノットとは安定感・信頼感も違う。でもグラウンドを見ずに一心不乱に風船膨らませはじめるのはどうかと思う。ちょっと苦笑したが、あっさり三者凡退にとるコバマサを見て「こういう形の信頼表明なのかな?」と思い直す。テンポ良すぎて膨らませるの間に合わない人もいたし。

今度はマリーンズのラッキーセブン。『Take me out to the ballgame』が流れたあと、一斉に色とりどりの風船が空へと解き放たれる。打順も一番から、否が応にも期待が高まるシチュエーションではないか。それなのに三者凡退というのはどうかと思う。一気に興ざめ。まぁ、「お互い様」と言ってしまえばそれまでではあるが。

8回表。マリーンズのピッチャー藤田が告げられる。一塁側客席に満ちる安心感は、なお強まった。ライオンズは2番からの好打順だったが、あっさり三者凡退。仕事を終えてマウンドを降りる藤田の姿に、風格すら感じてしまう。

この時、一塁塁審中村がボールを持って、それをじーっと見つめている。そこへ「ボールくれー」と声がかかる。中村、ゆっくりとした足どりでこちらに近づいてきて、そっとボールを投げた。幸運な誰かがそれをキャッチし、一塁側内野席は「中村」コールの大合唱。照れくさそうに小さく手を振って所定の位置へと戻る中村。いい人だ。

そして8回裏。先頭のボーリックがフォアボールで歩き、代走早川。初芝倒れたところでピッチャーデニーから橋本へ。福浦倒れ、立川の打席。東尾監督は橋本を引っ込め谷中を送った。プロとして当然なのかも知れないが、今後の展開を予想して半ば勝った気でいる一塁側席から「東尾、勝ちゲームじゃねぇんだぞー」と野次が飛んだ。

代わった谷中は、ランナーの早川をしきりに気にする。しきりに牽制を繰り返した後、結局走られる。しかもキャッチャー和田の送球が逸れ、早川は一気に三塁を陥れる。チャンスが大きく広がった。谷中の動揺を考えると、追加点は確実のように思われた。ここで立川、空振り三振。素直に谷中を褒めることにした。

谷中がマウンドを降りているさなか、一塁側客席全体からわき上がるコール。「ウォーレン」「ウォーレン」守護神を呼ぶ声だ。その中をリリーフカーに乗ってゆっくりと現れる。彼を見て私は来るときに出会った少女のことを思いだした。あの少女のためにも、抑えて欲しい。そう思い、彼の背中に視線を合わせた。「あんなに43という数字が頼もしく見える選手っていないだろうな」一人、呟く。その呟きは歓声に吸い込まれ、かき消された。

先頭バッターは、代打小関。力無くあがった打球は、レフト大塚の前にぽとりと落ちた。続く垣内の打球は、やたら深く守っていたライト立川の前で弾んだ。ノーアウト一、二塁。「おいおい」しっかりしろよ、という声にも深刻さがない。

鈴木健を二ゴロ併殺にとる。二塁ランナー進んで、2死三塁。バッター和田のところで代打貝塚が告げられる。ここで何とウォーレン暴投。一点入って3-2。だがここで余計周囲の空気が弛緩する。これでこのバッター打ち取れば終わりだ、とでも言わんばかりに。そして貝塚は、空振り三振。ゲームセット。

ヒーローインタビューは来日初勝利のノット。いきなり「ドモアリガト」と来たので、一層沸く。このときグラブにカタカナで名前を書くなどしてチームにとけ込むために努力している、という逸話が披露される。良い話だと思った。少し前、彼と同じ「エリック」の名を持つ左腕投手はチームを出ていってしまったが、彼にはできれば長くいて欲しいな、などと思いながら球場をあとにした。

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