9月7日 ロッテ−西武
(千葉マリンスタジアム)

(千葉県・ふさ千明)

Johnny be good!

翌々日にはまた同じ千葉マリンで野球を見る予定があったにもかかわらず、この日夕刻、そぼ降る雨の中を球場へ向かっていた。雷鳴轟いたりして“中止”という文字がちらついたが、とりあえず行ってみた。

予告先発がジョニーこと黒木であり、さらには石井浩郎がケガから復帰して一軍にあがってきたということもあって、この試合一見の価値ありと思ったからである。個人的事情としては、この日私は珍しくバイトがなく身が空いていて、この機会を逃すと後はいつジョニーを見られるか分からなかったというのもある。

家を出るときにはかすかに晴れ間が見えていたのに、球場に近づくにつれて天候は悪化の一途をたどる。しかも途中、バイト先のコンビニで買い物をしていたら店長に捕まって30分ばかり世間話その他につきあわされる羽目に。おかげで球場着が試合開始ギリギリになってしまった。

幸いなことに雨で試合開始が遅れ、買い出しに行く余裕くらいはできたが。夕飯は復帰記念で石井浩郎弁当にしようとしたが、売り切れだった。さらにはジョニー黒木弁当も無い。これは予備日だから製造数が少な目、もしくはゼロなのか。

そんなことを考えつつ、カレーを調達して席へ。迷ったおかげで第一球には間に合わなかったものの、先頭バッター河田三振のシーンはキッチリ見ることができた。続く2番宮地はサードフライ。3番松井センターフライで三者凡退。チェンジ。席について見回してみると、予備日のせいか天候のせいか、客は川崎球場なみに少ない(7000人)。

1回裏。ライオンズの先発は許。1番諸積ワンツーからの3球目、ショートの頭を越すライナー性の打球は左中間を割るツーベース。2番サブロー、送りバントの構え。バットに当たったはいいが小フライになってしまい、ピッチャーとってワンアウト、ランナー諸積戻れずこちらもアウト。一瞬でアウトが2つ増え、ランナーがいなくなってしまった。3番佐藤がライト前ヒットを放つも、4番ボーリックレフトフライでチェンジ。

2回表。4番フェルナンデスがサードにファールフライ。追っかけているサードがサードだけに緊張感あるプレイになった。無事捕ったときには拍手が湧いたほどに。「やればできるじゃないか初芝ー」そんな野次まで聞こえた。

5番ポール、レフト前に弾いてライオンズの初ヒット。6番和田セカンドゴロ。ゲッツーにできるかと思ったが、ファーストはセーフ。7番鈴木健の場面で、1塁の和田がスタートを切った。盗塁成功。2死2塁。鈴木健フォアボールで歩いて2死1,2塁。チャンスも8番中嶋センターフライでチェンジ。

2回裏。先頭バッターは、5番石井。何カ月ぶりかに見る、バッター石井だ。ライトスタンドからはトランペットの音色と共に「熱くなれ石井」の大合唱。背中から溢れでる気迫。紛れもない“漢”の打席だ。

渾身のひと振りは空振り三振。しかし、私は責めようとは思わない。去る7月9日、本塁突入の際右手首を骨折して全治2ヶ月と診断された怪我を、苦闘するチームのためにとリハビリ含めて2ヶ月きっちりで復帰してきたのだから。6番堀、振り回したあげくの見逃し三振。7番酒井センターフライで三者凡退。チェンジ。

3回表。先頭の9番高木浩之ピッチャーゴロ。打順トップにかえって河田。ライト前に運ぶ。1死1塁。続く宮地もレフト前に。1死1,2塁。ここで金獅子・松井稼頭央登場。ファーストファールフライ。2死1,2塁。フェルナンデスレフト前ヒット、ライオンズ1点先制。1-0。ポール空振り三振でチェンジ。

3回裏。先頭の8番吉鶴うまくあわせて右中間を破る。ノーアウトで2塁。バッター9番小坂。バッターボックスに入った物の、サインがあわないのかタイムを取ってサードコーチと何やら確認している。

「ややこしいことやってんなよ。シンプルイズベスト!」どこからかそんな声がした。結局小細工はなく、打ってでた小坂の打球は三遊間へ。セカンドランナー吉鶴帰塁し、ショート松井が深い位置で掴んだ。あとは松井の肩と小坂の足の勝負。一瞬の差で小坂の勝ち。ノーアウトでランナー1,2塁。打順トップにかえって諸積。レフトフライ。サブローピッチャーゴロ。小坂ゲッツー崩しのスライディングで2死1,3塁。しかし佐藤ライトフライでチェンジ。

4回表。和田レフト前ヒット。鈴木健センターフライ。中嶋セカンドゴロゲッツーでチェンジ。

4回裏。攻撃前に、マリーンズの選手たちがベンチ前で円陣を組んでいる。もちろん何を言っているのかは分からないが、効果に期待。先頭のボーリック、フォアボールで出塁。再度石井の打席だ。ランナーをおいての打席は、前にも増して盛り上がる。

そして2球目、打球はライトスタンドへ一直線。しかし判定はファール。派手な身振りで思いっきりアピールする1塁塁審。打ち直しの打球はセカンドゴロゲッツー。広がる虚無な空気。続く堀、フォアボールで出塁。2死1塁。酒井ライト前ヒット。2死1C3塁。吉鶴初球を打ってセカンドゴロ。チェンジ。このタイムリー欠乏症、深刻。

5回表。先頭の高木浩之ライトフライ。河田センター諸積の頭上を抜くスリーベース。1死3塁で、バッター宮地。初ホームランはあの荘勝雄から打ったという古参打者。この打席でも古株らしい粘りを見せる。空振り三振かと思ったが、ファールチップの判定。要は吉鶴が落として無ければアウトだったわけだ。こういう時の黒木は危ないんだよなぁ‥。言った先からライトへ大飛球。サブローの好捕がなければ抜けていた難しい打球。当然犠牲フライとなって河田生還。1点追加。2−0。しかし松井をセンターフライで仕留めて、黒木崩れず。

5回裏。先頭の小坂ショートゴロ。今度は間に合わずアウト。諸積セカンドゴロ。サブローレフト前ヒットも、佐藤空振り三振でチェンジ。ランナーは出ているのだ。出ているのだが。

6回表。フェルナンデスがセンターフライ。ポール空振り三振。和田ショートゴロで三者凡退。ジョニー、我慢のピッチング。

6回裏。先頭のボーリック、レフトオーバーツーベース。バッター石井。、二遊間への当たりはショートゴロ。しかし何を焦ったか、松井が送球をサードへと走るボーリックの背中に当ててしまい、ボールはファールゾーンを転々。ボーリック当たった痛みをこらえて一気にホームイン。2-1。打った石井はセカンドへ。その石井に、代走早川。

続くバッターは堀。微妙な打球はサード内野安打。まだまだ足は並以上らしい。ノーアウト1,2塁。さらに酒井フォアボールで満塁。ここで吉鶴に代打福浦が告げられる。マウンドに集まるライオンズ内野陣。コーチ出てきて、許、交代。ピッチャー土肥。すると福浦引っ込んで代打の代打、初芝。

「初芝、働け〜〜」マリーンズファンの誰しもが思ったことを、誰かが野次で飛ばした。ツーナッシングからの3球目。ファールがキャッチャー中嶋を直撃。当たった中嶋よりも痛々しい初芝のスイングに、おいおい大丈夫かいなと思った。なんでも聞いたところによると腰を痛めているらしい。そんな状態の初芝に頼らなければいけないチームのほうが痛々しいかも知れない。

そんなことを考えて見守った打球は、前進守備隊形をとっていたセカンド高木浩之の横を抜けるセンター前ヒットで同点タイムリー。2−2。小坂のレフトへの打球は犠牲フライとなって、マリーンズついに逆転。2−3で、なおも1死1,2塁。さらに諸積センター前ヒットで再度満塁となって、ライオンズのピッチャーは潮崎に代わる。サブローサードゴロはホームのアウトのみで、2死満塁。佐藤に代打平井が告げられる。ここで平井のひと振りはレフトオーバーツーベース。走者一掃で3点追加。2−6。

「やればできるじゃないか」そんな呟きは誰のものだったか。そしてそれは平井に対してなのか、チーム全体に対してなのか。なおも2死2塁だが、ボーリックはファーストゴロでチェンジ。長い攻撃が終わった。

7回表。大量に選手交代があったので、入れ替えがややこしい。まず代打した平井に代わって山本が入りファーストへ。代走の早川はレフトに。代打の代打初芝のところにはキャッチャー橋本が。なんというかこう“あとは守るだけ”という雰囲気が漂う。

ようやく味方が点を取ってくれて余裕が出てきたのか、ジョニーのピッチングは既に投球数が100を越えたにも関わらず、かえって内容が良くなっていく。鈴木健センターフライ。中嶋のところで代打に小関が出て、ピッチャーゴロ。高木浩之レフトファールフライでチェンジ。黒木、球威も球速も落ちない。

7回裏。代打小関に代わってキャッチャーに伊東が入る。先頭の早川レフトフライ。堀ショートゴロ。酒井ライトフライで三者凡退。なんというか、こう、淡泊。

8回表。ライオンズは打順良くトップの河田から。その河田はセカンドゴロ。宮地見逃し三振、松井セカンドゴロで三者凡退。なおも黒木、球威も球速も落ちない。

8回裏。ライオンズのピッチャーが星野に代わる。吉鶴セカンドゴロ。小坂センターフライ。諸積空振り三振で三者凡退。淡泊淡泊。

9回表。この試合最後のジョニーコールの中、黒木が悠然とマウンドへ。先頭のフェルナンデスフォアボールで出塁。ポール見逃し三振。和田レフトフライ。鈴木健キャッチャーファールフライでゲームセット。最後の球も、球威球速共に疲れを感じさせないものだった。

勝利投手黒木、7勝11敗。敗戦投手許、5勝7敗。ヒーローインタビューは当然ジョニー。彼は前半戦の不調を恥じると共に、巻き返しを誓った。オリンピックのことを問われれば「オリンピックよりもまずはペナントです。オリンピックに行くまでに、あと2つは勝ちます」

紛れもない、エースの宣言だ。マリーンズのために、ファンのために、ニッポンのために。何かを背負うほどに、ジョニーは輝いて見える。「悪あがきします!」もう“優勝目指して頑張ります”とは言えない。締めの言葉は、そういう意味ではいささか情ッなくも、またその中での意地を見せた、ジョニーらしい一言だった。

インタビューのあと、恒例であるライトスタンド前での万歳三唱。そして「山本マリーンズ」コールに応えて、山本監督がベンチから姿を見せた。申し分ない交歓の光景だった。私もベンチへ向かう黒木に「ナイスピッチングジョニー!」と声をかけた。存分に堪能して球場を出る際、振り返って思い返せば、何よりも観客数の少なさが惜しくなる黒木の熱投が心に残っていた。

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