7月11日 イースタンリーグ公式戦 日本ハム−湘南
(ファイターズスタジアム)

(千葉県・ふさ千明)

大学院の講義も7月早々と夏期休暇となり、昼間は身が空いた私は野球に対する「飢え」を満たすべく日程表を眺めた。が、最初の数日は雑務に追われ、眺めるだけだった。

明日は昼間にな〜んにも用事がないなぁ、朝寝でもするかな? という夜。まさに翌日鎌ヶ谷ファイターズスタジアムで対湘南シーレックス戦がある事に気づく。ファイターズタウンもシーレックスも見たことがなかった私は、即決した。

当日正午、我が家をあとにして自転車をこぎ出した。坂、坂、坂。トラック、トラック、トラック。砂ぼこり、砂ぼこり、砂ぼこり‥‥。あまりの悪条件に、私は大通りを避けて地図を頼りに小道を行くことにした。

が、これが甘かった。住宅街は静かで風も心地よかったが、行き止まりに出会うこと数回。庭掃除中の人に道を尋ね、ようやく脱出。ファイターズタウンに到着したときは、すでに試合開始数分前。急いでチケットを買って中へ。

階段を上がって見渡すと、そこそこの入り具合。「二軍戦」「平日昼間」「猛暑」ということを考えれば、充分入っている方だと思う。周囲を森に囲まれているため、通り過ぎる涼風が陽差しをいくぶん和らげてくれる。

外野の芝は眼にも鮮やかに広がり、自分が多目的会場ではなく野球場にいることを再確認させてくれる。あの場所とおなじ広さなのに、こちらの方がより広大に思えるのも不思議だった。

涼を求めて販売機で「アクア ナシ ウォーター」を購入して戻ってきたところで、プレイボール。誰がが聞いているラジオから、札幌で同時刻に始まった巨人−広島戦が流れてきた。何となくこういうところもファームの試合らしいような気がする。

先発はファイターズ正田、シーレックス神田。正田が見られるというだけで得した気分になる。しかしその正田、思ったほどでもなかった。初回から腕が縮こまり、ボール先行。変化球が外れ続きで2番3番を歩かせてしまう。シーレックスの4番は駒田。その名がコールされるとひときわ沸くが、野次も強烈だ。

ネクストバッターズサークルにいるうちから「どうせ打順回ってこねぇよ! ミット持って用意しとけ〜」である。「野次に頭来てバット投げて帰んなよ〜」野次る本人が言うから、思わず失笑した。

その駒田、1死1,2塁の好機で2ゴロ併殺。チェンジ。そのあと正田は2回3回を3人で切ってとり、一見立ち直ったように思えたが、ボール先行は相変わらずで、どうにも危なっかしかった。

「うまくないねぇ、正田」近くのオヤジさんが話しかけてきた。「まぁ、ルーキーですからねぇ」「松坂みてぇにはいかねぇかね」甲子園優勝投手という点では同じなのだが、改めて松坂の「怪物」っぷりを思い知る。「腕が触れてねえよな。縮こまってるよ」

4回、案の定というと酷かも知れないが、正田がつかまった。この回先頭の田中一徳を歩かせ、続く古木・駒田に連打を浴びる。満塁となったところで次打者相川をも歩かせてしまい、押し出し。ここで鎌ヶ谷の野次将軍たちが一斉に火を噴く。

「歩かせるくらいなら打たせちまえよ!」「バックに8人も居んだ。こき使ってやれよ!」「ど真ん中ど真ん中〜」「キャッチャー、なんとかしてやれよ〜」

これがきいたか6番福本はライトフライ。タッチアップできずランナーそのまま。しかし7番七野にワンスリーとした後、ストレートを痛打され、センターオーバーの走者一掃3点タイムリー。8番小池は空振り三振でツーアウト。ラストバッター八馬をショートゴロに打ち取り、チェンジかと思ったが、ショート田中賢介がエラー。失点。ピンチが続く。

ここで気持ちが切れたようで、トップの石井義人にこの回3つ目のフォアボール。打者一巡して再び田中一。ここでマウンドに内野が集まった。これで落ち着いたか、田中一をセカンドフライに打ち取って、ようやくチェンジ。

「ワンサイドになっちまったよ。5連敗はごめんだぜ〜」小走りにベンチへ戻るナインへ、鮮烈な野次だ。「まだ回浅いよ〜」

この回先頭の4番西がセンター前へ。続く藤島ショートゴロ。ゲッツーかと思われたが、ショート福本の投げたボールは駒田の長い体の横を抜け、ファールゾーンを転々。打った藤島は2塁へ。6番高橋信二がレフト前ヒットを放つも、ランナー帰れず1,3塁。7番小田が歩いて、満塁。8番荒井のファーストゴロも、ゲッツーにならずなお2死満塁。9番森本がここでフォアボールを選び、押し出しで一点。だんだん表と似たような展開になってきた。

惜しむらくは2死ということか。1番田中賢介は先ほどエラーしただけに、挽回のチャンス。レフトの頭を越す大きな当たり、ランナー一掃で一点差に。2番石本もフォアボールで歩いてチャンスは続く。3番阿久根。

「阿久根〜、いい番号もらってんだからな〜」「背中、1番だよ〜」長打で逆転の場面。そして、阿久根にはそれだけの期待ができる。その阿久根の放った当たりは、ふらふらと上がったレフトフライだった。場内、嘆声。チェンジ。この回だけで約1時間の、長い長いイニングだった。盛り上がりはしたものの、暑さのためもあってか一部では「早くやれよ〜」「いい加減終われよ〜」と不評だった。これで5−4。まだまだ分からなくなった。

5回表、正田は3番古木4番駒田を順調に打ち取る。特に古木を空振り三振に切って取った球は今日のベストピッチだった。これで一安心かと思ったが、相川・福本に打ち込まれ、七野を歩かせたところで降板。4回2/3で被安打5、6四球で5失点。この日の結果如何では1軍昇格もあり得ただけに、惜しまれる結果だ。

2死満塁も、代わった櫻井が後続を断って無得点。5,6,7回は両チーム得点無く、膠着状態。6回からシーレックスはピッチャー神田から米に。この櫻井・米の投げ合いは、さすがどちらも一軍の水を飲んだだけはあるな、と思わせるものだった。

歩かせたり打たれたりしても、きっちり後続を断ち得点を与えない粘り腰。球が速いとか変化球が切れるとか、そういうことだけでは一軍にいられないんだと言うことを、このあたりで垣間見た思いがした。

このまま行くかと思ったが、8回から登板の黒木が、いきなりツーベースを打たれたあと自らのエラー絡みで一点を失い、9回にも2点タイムリーを打たれて試合を決めてしまった。ファイターズは反撃無くゲームセット。8−4でシーレックス勝利。

黒木も一軍の水を飲んだ男だが、櫻井との落差が、見ていて残念だった。が、久々に野球の飢えを満たし、新たに「自転車で行ける球場」を増やした私は、満足して帰途についた。坂とトラックと砂ぼこりの難路を通う決意と共に。

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