7月18日 イースタンリーグ公式戦 日本ハム−巨人
(ファイターズスタジアム)

(千葉県・ふさ千明)

ファイターズタウンでの試合にて、もと東映フライヤーズのエース尾崎行雄による始球式が行われると聞き、観戦を決意して前夜就寝。起床するとファイターズタウンの近くに住む伯父から誘いの電話があったと聞かされる。早速連絡し、市川大野駅に12:30待ち合わせということになった。

この時道すがらに、ファイターズタウンに向かうには、JR本八幡駅から市川北高行きバスに乗り市川霊園で降りると近いと教えてもらう。「巨人戦だからね〜。人、凄いよ今日」伯父が言った。

ガルベスが出るかも知れない。斎藤雅樹が投げるかも知れない。上原がベンチにいるかも知れない。そう思えば、確かに人は集まるだろう。現実問題として鎌ヶ谷遠征メンバーに彼らは入っていなかったのだが。

車が進むと、先日自転車で往生しながら走った道が見えてきた。ぼーっとしていると、あっと言う間にファイターズタウンだ。巨人戦のためらしいのだが、狭くもない駐車場が車で満ちている。係の兄ちゃんに「ここ止めていいの?」と話しかけて積極的に場所を確保していかないと止められない。

中は8〜9割の入り(公式発表950人)。どうせなら外野の芝生席にも客を入れたらどうかな、と思った。気持ちよさそうに見えたので。

入って飲み物を確保すると、始球式が始まった。悠然とした足どりで尾崎行雄登場。当時のままのユニフォームと当時とは似てもにつかぬであろう体型で。大いに沸くかと思ったものの、大した盛り上がりは感じられなかった。彼の現役時代を知っているであろう年代の観客も相当数いたのだが、拍手はまばらだった。

観客の多くが巨人目当てだったということだろうか‥。淋しい話である。そう思わずにはいられなかった。昭和37年20勝9敗で新人王。39年最多奪三振。40年最多勝・最多奪三振・ベストナイン。肩を痛め栄光の時代はわずか5年で終わったものの、その剛速球は当代随一と称えられた大投手であるのに‥。

先発はファイターズ平松。ジャイアンツ入来弟。「平松って巨人じゃなかったか?」そんな声が聞こえる。私も詳しいわけではないので、伯父の質問に選手名鑑を繰ってデータを見る。ファイターズ平松。3年目29歳。「特徴をアピールし一軍定着へ」という記述を見て、説明に困る。

入来弟は初っぱなから飛ばしていた。1,2,3回は完全に抑え込み「入来〜、イースタンで本気出してんじゃねぇよ!」「ちったぁ打たせてやれよ〜」早速野次将軍の攻撃にさらされる。スタンド、失笑。速球で空振りさせ、スローボールを見逃させてストライクが取れるのだから、実に見事だ。

ジャイアンツ側はスタメンに「永池」「斉藤宜之」「田辺」などが並ぶ。一回表の無死一塁から送りバントの采配に「高田〜、高校野球じゃねぇんだぞ〜」「マジック出てるチームのすることか〜」これには同感する。

2回表、1死から田辺がレフト前へ。福井が歩くと、大場が左中間を深く破って2点タイムリー。先制。2-0。4回にも1死から福井がレフトへ大飛球。5月に小久保のを見て以来久々に生で見たホームラン。それが鎌ヶ谷で福井のもの、ということに奇妙さを感じながら拍手を送る。「そんな長距離砲だったかなぁ」過去の観戦記憶をたぐってみるも、データは無かった。3-0。

「こりゃあ入来楽勝だな」伯父がそう呟いた。そういえば入来、前年イースタンでノーヒットノーランやったっけ、と思っていると、4回裏先頭の田中賢介にライトへ持って行かれる。完全試合もノーヒットノーランも完封も、全て吹き飛んだ一発。盛大に沸くファイターズ応援席。

「見たか入来!これが田中賢介だ!」ここから、入来の崩壊が始まった。続く阿久根を4球で歩かせ、西にセンター前に運ばれ一、三塁。藤島がレフトへ犠牲フライで4-2。小牧、高橋信二に連打を食らって、この回結局3失点。「だから一軍で通用しねぇんだよ、あいつは」伯父が、うんざりしたように言った。3-3で、試合も仕切直し。

ファイターズ平松はここまでで、5回表から佐々木が登板。「何か『大洋ホエールズ』を思わせる継投だな」どうせなら遠藤も投げてくれるとよりホエールズなんだけどな、などと愚につかぬ事を考える。

先頭の宮崎が歩く。永池がすると3打席目で早くもこの日二つ目の犠打。「そういえば高田監督、前のチームでもこんな采配だったような‥」前に監督やってたチーム、そういえばファイターズだった。

1死二塁からフライがセンターへ、大貝が走る走る走る! キャッチするや否やセカンドへ送球! ハーフウェイで行方を見ていた宮崎、帰塁失敗。チェンジ。大貝に大きく拍手。伯父曰く「やっぱりな、田辺がファインプレーしても当たり前なんだよ。ああいうヤツがやってこそ、イースタンのファインプレーだよな」

その裏。先頭の森本がレフト前ヒット。気をよくしたか、盗塁を試みる。いいスタートだったが、タッチアウト。続く田中賢介も倒れ、2死。次打者阿久根が足にデッドボールを食らう。足を引きずり引きずり一塁へ。

「走れるのかな?」「交代した方が良いんじゃないかね?」そんな声がどこからか聞こえた。ところが西のセンター前ヒットで一気に三塁を陥れ、打った西よりも大きな拍手を受ける。点にはならなかったが。

6回表の頭からファイターズのマウンドにタティス登場。名鑑を見ても載っていなかったので、念のためにと持ってきた週べの『2000年途中入団選手名鑑』号をめくる。それによると「最速150キロの速球派左腕」となっている。掛け値無しにデータ通りなら大変な幸運だ。

そのタティス、先頭の大野にいきなりレフト前へ運ばれる。高野が歩いて、無死一,二塁。田辺のセンターフライで、ランナータッチアップ。1死一,三塁。ここでバッターは前打席のホームランも記憶に新しい福井。

鋭いスゥイングから放たれた打球は、前進守備のショート田中賢介の前に飛ぶ。ショートライナー。飛び出したランナーを仕留めるべくすかさずファーストへ送球。しかしこれがとんでもない悪送球で、三塁ランナー大野ホームイン。4-3。

その後タティス、後続を断ってチェンジ。ここで気持ちが切れないのはえらかった。速球は150キロという程には速く感じなかったが、色々な面でまだ不慣れであることを考えれば、今後出てくるピッチャーかも知れない。そう思った。

逆転したためか、その裏入来はもう出てこなかった。後を受けたのは2年目の進藤。小牧・高橋信二・小田と三者連続三振に切ってとり、私の記憶にはその背番号64とともに彼の名が刻まれた。

7回表。1死からヒット・フォアボール・ヒットで満塁。ランナーが二塁にいるのにシングルヒットで帰ってこられないのを、伯父が不思議がる。「一軍だったらアレで一点だよなぁ」確かに。よく見てみると、どうやら全体的に外野守備が浅めのようだ。ここでバッターは4番大野。タティス、無念の降板。代わって櫻井がマウンドへ。

「これ以上点とられるなよサクライ〜〜」子供の声がした。しかしレフトへあがった打球は犠牲フライとなり、一点追加。5-3。チャンスは続くも次打者高野空振り三振で、チェンジ。

その裏。進藤に代わってピッチャー河本がコールされる。本音を言えばもう少し進藤のピッチングを見たかったのだが、河本となれば話は別だ。石井浩郎とのトレードも記憶に新しいこの男を、まさかここで見ることになろうとは‥。

「懐かしいなぁ〜」とその投球を見るも、パリーグの強打者たちが「見るのもイヤだ」と言った、あの殺人ストレートではなかった。それでも打者4人で奪三振3は素晴らしい。もしこれがロッテ戦ならダブルストッパーを務めた成本と投げ合ったりするのかと思うと、その数奇さを思い少し悲しくなった。

8回表。先頭の田辺ヒットで出塁。ここに来てさらにバントを命じる高田監督。キッチリ送って、1死2塁。「高田ー、高校野球行けよお前〜」痛烈だが、同意者は結構いるようだった。

続くバッター山田のゴロをショート田中賢介処理を誤り、傷口を広げてしまう。1死一、三塁。何回も見たような気がするこの場面。ラストバッター小田がレフトへ犠牲フライを上げて一点追加。6-3。トップに返ってバッター宮崎。ヒットで続いて、この日3安打目。猛打賞、と言いたいところだがファームの試合にそういう恵まれたものはない。

続く永池が歩いて、2死満塁。バッターは斉藤宜之。チャンスで3番バッター。なのに意外と盛り上がらないのは暑さのためか点差のためか。セカンドゴロでアウトになったときの、パラパラとした拍手が何かを象徴しているように思えた。

その裏。阿久根を三振に切ったところで河本お役ご免。佐藤充に代わる。その佐藤充は藤島にヒットを打たれるも無事0点に抑えた。この頃から、席を立つ人が目立ちはじめる。この試合長いのである。この時点ですでに3時間をとっくに過ぎ、1軍並の試合時間。

9回表、先頭の大野がツーベース。高野がセンター前に返して、一、三塁。田辺サードゴロの間に一点入って7-3。「サクライがんばれ〜〜」先ほどと同じ子供の声がした。その声援空しく、福井にレフト前、山田にライト線ツーベースを打たれ、8-3。

小田をファーストゴロにとったところで櫻井降板。神島がマウンドへ。高校卒業後渡米し2年間インディアンヒルズ短大にいた異色のルーキー。140キロの直球とチェンジアップのコンビネーションで打たせて取るタイプだそうだが、さて、などと思って見ているといきなり宮崎にフォアボールを与えてしまう。

次打者はここまで犠打2つ、フォアボール2つ、ヒット1つの永池。塁が埋まっているときに一番迎えたくないタイプだ。しかしその永池を緩い球を引っかけさせてセカンドゴロに打ち取り、何とかこの回の幕を引く。残っていた人の半数近くもこの時席を立ち、先日と同じくらいの人数が残った。

9回裏、「さ〜あ、最後の反撃だ〜」という声も、どこか小さい。先頭の高橋信二倒れ沈痛な空気が広がるも、続く小田がレフトオーバーのツーベース。さらに大貝もレフト前へ。この日何度目かの1死一、三塁。ここでバッターは名物男森本稀哲。

5回表のヒットよもう一度、と盛り上がるスタンド。そして打球はピッチャーの前へ。1−6−3と渡って、ゲッツー。試合終了。4時間近い試合時間で、ため息の唱和だけが残った。8-3でジャイアンツの勝利。前半戦だというのに、順調にマジックが減った。

帰り際。「日ハムの選手は負けると居残りで練習するんだよ、ホラ」伯父に言われて車窓からグラウンドに眼をやると、早くもランニングを始めていた。勝つために、強くなるために、うまくなるために、必要な事があるんだなぁ‥。そう思わずにはいられなかった。

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