9月11日 ロッテ−日本ハム
(千葉マリンスタジアム)

(京都府・ふさ千明)

プレーオフへ行こう!

1日目

9/10夕刻「スト回避」の情報を受けて、事実上のプレーオフ出場決定戦となるであろう土・日の千葉マリンスタジアムへの遠征を準備した。ただ、恐ろしいほどの混雑が予想されたので、大垣発の夜行快速『ムーンライトながら』で上京し朝6時前には球場に着くようにした。

しかし、すでに外野席ライトゲート前にはシートが二列半ほど敷かれていた。その後も続々と人が増えてくる。球場内の駐車場は開門時間の遥か前に満車。入場ゲートのみならずカモメの窓口初め券売所前にも長蛇の列。また、その光景をNHKを初め、各社の報道記者が取材するために千葉マリンのあちこちを徘徊していた。私も話を聞かれた。到着してから5時間、ようやく当日券を購入し、ついでにキッチンカーにてカレーパンを購入して食べた。

それからさらに1時間後、ようやく開門となり中に入ると、階段を駆け上がった先の踊り場にテレビ朝日のカメラマンがいたのには笑ってしまった。その後も新聞記者が試合経過をメモとりながら何枚も写真とっていたり、今まで見たこともない光景が繰り広げられていた。
「現場に行けなかったけど、きっと10.19の時の川崎もこうだったんだろうなぁ」
違うのは、あの時は単なる敵役だったが、今日は主役だということだ。

ともあれ。恐ろしいほどのテンションである。首位から遥か離されて僭越至極だが、それでもルール上、この時期になってもまだ日本シリーズに出場する権利が残されているのだから、盛り上がらずにはいられない。生まれたころから千葉に球団があった子供などは、マリーンズファンになってからほとんど良いこともなかったと思うが、初めて訪れたこの決戦の機会をどう思っているだろうか。合併反対署名運動の前で「マリーンズが無くなっちゃうのやだよう」と泣いていた少年は、きっと今日もこの球場のどこかにいるのだろう。彼らのためにも、この試合、負けられない。

先攻のファイターズ
1番センターSHINJO、2番セカンド木元、3番サード小笠原、4番DHセギノール、5番キャッチャー高橋信二、6番ファースト小田、7番ライト坪井、8番レフト石本、9番ショート古城、ピッチャ−金村。

後攻のマリーンズ
1番レフト井上純、2番セカンド堀、3番ファースト福浦、4番センターベニー、5番DHフランコ、6番キャッチャー橋本、7番サード今江、9番ショート小坂、ピッチャー小野。

小野と金村の投げ合いと言うと2000年のシーズンを思い出す。ファイターズの下位打線には若干当時のかおりが残っている。あのころからファイターズとは死闘を繰り広げていた。そして今、プレーオフと言う晴れ舞台目指しての直接対決が始まった。

今日は、レフトもライトもいっぱいだ。シーズンシート以外には空席はない。立ち見も出ている。その上、天候も申し分ない。決戦の舞台は整った。プレイボール。

1回表。
SHINJOピッチャーゴロ、木元空振り三振と小野順調だが、小笠原とセギノールに連打を浴びる。特にセギノールは守備陣が極端なシフトを敷いていたにも関わらずそれでもライトに持っていかれており、つくづく恐ろしい。

二死一、二塁でバッターは高橋信二。ある意味セギノールより恐ろしいマリーンズの天敵打者。ボール、ストライクと来て3球目、打球は歓声と悲鳴の間を抜けてセンターへ。誰もがファイターズの先制点を予想したが、怪我を抱えたベニーがスライディングキャッチ! ベニーコール。そして、それに応えるベニー。「初回からこれで9イニング持つだろうか」と言う不安は、思いも寄らぬ形で3時間ほど後に現実になった。

1回裏。
井上見逃し三振、堀ライトフェンス直撃のツーベース。福浦、ベニーと連続フォアボールで一死満塁。ピンチの後にチャンスあり。フランコの飛球は浅すぎるレフトフライ。橋本空振り三振でチェンジ。

2回表。
小田、坪井と連続でセカンドゴロ。しかしまたもやツーアウトから石本と古城に連打を浴びて二死一、三塁。チャンステーマの「北の国から」が流れる。レフトの純はいろんな意味でやりにくそうである。「父さん、ボクは今、マリンスタジアムにいます」と頭の中でナレーションが流れていないだろうか。そんな馬鹿なことを考えていたらSHINJOがライト前へ運ぶ。値千金の先制タイムリーで1−0。なおも二死一、三塁変わらず。続く木元がセカンドゴロでチェンジだが、先制されたと言うショックは大きい。

2回裏。
守備につくSHINJOが突き上げるガッツポーズでコールに応えた。ああいう仕草は見ていて悔しくない。かっこいいなと素直に思う。アレが千葉マリンで見られるというだけでもパリーグに来てくれて本当に良かった。攻撃は三者凡退であっさり交代。

3回表。
こちらもクリーンナップからだが三者凡退。立ち上がりを切り抜けた両投手、調子を上げて投手戦の様相。

3回裏、4回表、4回裏と三者凡退。5回表もSHINJOが四球で出塁したが木元セカンドゴロ併殺で三人で終わった。こうなると2回表の1点がとても重たい。5回裏も三者凡退で6回表へ。

この回先頭の小笠原がライト線へツーベース。セギノールがまたもシフト突破のライト前ヒットで無死一、三塁。高橋信二センター前タイムリーヒットで2−0。ついに小野晋吾降板。5回三分のゼロ2失点と最低限の役目を果たしての降板であるため、その労を称える拍手に包まれての降板だった。

無死一、二塁でバッター小田の場面で、ピッチャーは高木に。小田の打球は右中間やや前方に飛んだ。平下突っ込んだが捕れず、しかしバウンドしたところを諸積がすかさず拾い上げたためランナーは三塁でストップ。 これで無死満塁。今日の貧打ぶりでは、ここで勝負が決まりかねない。「高木〜〜」と悲痛な叫びがそこかしこから上がった。

祈るようなこの叫びを背負って、高木は坪井を空振り三振に切って取る。次打者石本には代打島田が告げられ、高木は交代。ピッチャー山崎健。島田初球を打ってサードゴロ。今江捕ってセカンド転送。堀から福浦へボール回って併殺成功。チェンジ。見事しのいだ! ライトスタンド総立ちで山崎コール。山崎、グッジョブ!

6回裏。
堀、福浦と外野フライに倒れ、またダメかと思ったが、ベニーは違った。「ベニーベニー、Benny would go!(ベニーならやるぜ!)」の声の中、打球はレフトスタンドへ飛び込む、望みをつなぐ追撃の一打。ベニーの34号ソロアーチで2−1。フランコサードファールフライでチェンジになったが、球場の興奮はまだ冷めやらない。

7回表。
耳に馴染んだ♪進め〜ファイターズ〜勝利の男〜ではなく、今年から採用されたテーマソング「Go! Go! ファイターズ」が流れる。古城、SHINJOと打ち取ったところで山崎交代。藤田がマウンドへ。藤田も危なげなく木元を打ち取ってチェンジ。ピッチャーは頑張っている。バッターも頑張れ!

7回裏。
ウィラブマリーンズから風船飛ばし、そしてTake me out to the ballgameへ。いつもの変わらぬ流れ。この流れがいつまでも続いて欲しい。そして7回裏のマリーンンズの攻撃。橋本レフトフライ。今江初球を打ってファーストファールフライ。平下も同じく初球を打ってショートフライ。…こういうところは変わってくれ。

8回表。
小笠原を空振り三振に仕留めて藤田交代。薮田登場。入団して数年は「右の園川」とか言われていたのに、今ではすっかり頼もしくなった薮田。セギノール、高橋信二と連続三振に切ってとる。一塁側拍手喝采。

8回裏。
小坂に代打“国民的”イ・スンヨプ。フォアボールで出塁。井上には代打西岡。初球、バント失敗。ファールで済んだのが不幸中の幸いだが結局サードファールフライ。これで一死一塁。

バッター堀のところで、ヒルマン監督が出てきた。好投の金村ついに交代。ピッチャーは建山。堀は2球目を打ってセンターへの飛球。ちょっと上空で風に遊ばれたこのフライをSHINJOが目測を誤ったか、やや不安定な姿勢から片膝をついて捕球体勢に入ったものの、しかしこれをこぼしてしまう。

とはいえ、そこはさすがSHINJO。これを素早く掴んで傷口を広げない。一死一、二塁。福浦ライト前ヒットだがスンヨプ帰れない。一死満塁。バッターは先ほどの打席でホームランを打ったベニー。もはやライトスタンドだけではない。場内のマリーンズファンが総立ちでこの場面を迎えた。

ストライク、ボール、ボール、ファール、ファール、ボールでフルカウント。ここからファール、ファール、またファール。1球ごとに声援がどよめきと溜め息に変わる。10球を越え11球目もファール、そして12球目、ベニーのバットが初めて空を切った。空振り三振! 無念だが、もうこれは建山を褒めるしかない。

しかし、まだチャンスは終わっていない。二死満塁と変わってフランコ登場。フランコもフルカウント後の7球目、打球はショートへ。古城掴んでセカンド送球。フォースアウト。無念のチェンジ。

9回表。
代打のスンヨプがファーストに入り、西岡はショート。福浦のところにサブローが入ってライト。レフトのベニーがセンターに回って、平下がレフトへ。小田、ライト線を破るツーベース。坪井はバント失敗のキャッチャーフライ。石本には代打オバンドー。非常に嫌な場面で嫌なバッター。シーズン途中からの成績で.354の8本とはどういうことか。

しかしここは薮田が冴えてライトフライ。続く古城にも代打エチェバリア。こちらは.253の15本と、うちでいうところのイスンヨプクラス。「あ、スンヨプか」とホッとしてしまうのはどうなのか。薮田の冴えは続いて、エチェバリアを見事空振り三振に。ベンチに引き上げる薮田に、薮田コール。ここまで2−1。ファイターズリード。ピッチャーたちは最善を尽くした。あとは逆転を信じるのみである。

9回裏。
ピッチャーはファイターズのリリーフエース横山に代わった。橋本ライトフライ。今江には代打初芝。ここで今日一番の歓声。満場の期待を背負った初芝、初球ボールの後の二球目を打ってショートゴロ。ひときわ大きな嘆声が響いた。

二死無走者でバッター平下の場面、代打垣内がコールされた。「打て!打て!今ここで!」彼の応援にある、まさにその場面である。しかし垣内も初芝同様二球目を打ってサードゴロ。少し高めの打球であることに一縷の望みをかけていると、これを小笠原が悪送球。木元の横を抜けてファールゾーンを転々。垣内はセカンドへ。九死に一生とはまさにこのこと。

バッターはイスンヨプ。またも打球はサードへ。先ほどよりさらに深いところに転がった。そしてこの送球がまたもそれる。垣内ホームイン。ついに同点! 2−2。歓喜歓喜の渦。西岡初球を打ってライトライナー。チェンジ。

10回表。
薮田に代わり、マリーンズのピッチャー小林雅英に。SHINJOセンターフライ、木元空振り三振、小笠原も空振り三振で三者凡退。チェンジ。

10回裏。
堀、初球を打ってレフト前ヒット。サブローピッチャーに捕らせる送りバント。きれいなバント成功に驚愕の声を上げてしまった。ベニー敬遠で一死一、二塁。ピッチャーは横山から井場に交代。バッターフランコ。2球目が暴投になって二、三塁に変わった。フォアボールで満塁。橋本中途半端なスイングでピッチャーゴロ。初芝ショートゴロでチェンジ。

11回表。
セギノールレフトライナー。垣内やや危ないながらもがっちりキャッチ。高橋信二空振り三振。阿久根も空振り三振でチェンジ。コバマサ、本日は劇場無し。悠々とマウンドを降りてベンチへ向かうその後ろ姿からは「後1イニング当然行くぜ」という意思が強く感じ取られた。

11回裏。
先頭バッター垣内。先ほどの奇跡的な同点劇も垣内からだった。「垣内!垣内!垣内!垣内!打て!打て!今ここで!」その叫びは、悲痛ですらあったかもしれない。しかし、9回裏のそれに比べれば、むしろ希望に満ちていた。

その初球。垣内は打った。打球はゆっくりと美しく放物線を描き、レフトスタンドへ。球場中に響いた叫びは、この長き戦いを見続けた、それぞれの思いが込められていたのだろう。ライトスタンドは怒号にも似た感情のほとばしりが満ちていた。周囲と抱き合っている人もいた。感極まって涙を流している人も珍しくなかった。私もそうだったかも知れない。

一塁側ベンチから全員が飛び出してヒーローの帰りを待つ。手荒い歓迎の後、全員で垣内を囲んで右腕を上下させて「垣内!垣内!垣内! 垣内!打て!打て!今ここで!」をやっていたのには思わず笑ってしまった。「みんな好きなんだな、あの応援」

ヒーローインタビューはもちろん垣内。「今日ね、ピッチャーも一生懸命頑張ってくれたので、野手もやっぱりここで一生懸命頑張んないと。やっぱり勝つために、このグランドでやっているので。ありがとうございます。」

「やっぱり勝つために、このグランドでやっているので」と言う言葉が、私には何より嬉しかった。勝つために。この言葉がひときわ大きく沁みた。椎木とのトレードは成功だった。優勝争いとは次元の違うプレーオフ枠の争いだが、それでもマリーンズ生え抜きの選手達が初めて味わうプレッシャーには違いない。この中で優勝経験豊富な垣内の存在は非常に心強い。

インタビューの後、こちらまでやってきた垣内と一緒に万歳三唱。この写真が翌日のスポニチの一面を飾るとは思いも寄らなかった。(二日目に続く)

勝利投手  小林雅英  8勝5敗18S
敗戦投手  井場友和  2勝1敗

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