『ボクを野球場に連れてって』

(綱島理友・著/朝日文庫)

(東京都・むさし)

著者は元「ポパイ」の編集者で、野球関係の著作は今のところこれ1冊のみである。そのようなことから野球マニアには軽く思われがちだが、なかなかどうしてこの本はマニアから初心者までが楽しめるプロ野球観戦ガイドである。

またこの著者は、現在「週刊ベースボール」で「ユニフォーム物語」を連載しているが、そちらも興味深い。

さて本の内容は、北は札幌円山球場から南は福岡ドームまでの地方球場を含めた全国14球場の野球場観戦記や「全国野球場ホットドッグ選手権」「女子高生にもわかるプロ野球史」などで構成されている。

まず、観戦記から紹介すると、

@札幌円山球場では駅から球場への道がまるでハイキングコースのようで、野球を見にきたつもりがいつのまにかハイキングをしてる自分に気づく。
A宮城球場では左手で「いかぽっぽ」をかじりながら右手でビールを持っている人が、イカのかたさに神経を集中させているうちに自然と右腕が上がって最後にはビールを持つ手が聖火ランナーのようになってしまうのを観察する。
B神宮球場では売店のメニュー表の中に御大層に「カール150円」や「チョコボール200円」と掲げてあるのを気にする。
C東京ドームでは野球がドームという入れモノに入ったパッケージ商品のようにチマチマしたものに見える。
D西武球場ではチェンジになるたびに、必ずハンドマイクで「通路、ネット際での立っての観戦、撮影はお断りします」等の係員の観客への教育的指導に憤る。
E横浜スタジアムでは創業天保10年の老舗いなりずしの「泉平」をお勧め(球場内でも売っているが、球場に行く途中に馬車道のお店で買ったほうが新鮮ぽくて値段も安いそうだ)。
F千葉マリンスタジアムではフランコへの応援で、ドラムとアカペラの合唱にアメリカ風の格好良さを感じる。
G静岡草薙球場では数少ないプロ野球開催で、少年ファンの嬉しそうな声に感動する。
Hナゴヤ球場では売店で買った「どて飯」を半分食べたところでギブアップ。
I藤井寺球場では河内弁のヤジやサンダル履きで自転車でやって来る観客にホノボノとする。
J甲子園球場では「イカ串焼」にタイガースファンのワイルドさの原因を思う。
Kグリーンスタジアム神戸ではマジック1で迎えたマリーンズ戦でのブルーウェーブファンのマナーの良さに感心する。
L広島市民球場ではオバサンの観客の多さに違和感をおぼえる。
M福岡ドームではその贅沢さに本来の野球場とはまったく違うコンセプトを感じる。

〜といった作者独特の視点からの球場訪問記となっている。これを読むと「プロ野球を野球場に見に行くのは楽しいよ」という作者の考えがよく伝わってくる。

次に「全国野球場ホットドッグ選手権」では、作者は福岡ドームを第1位に推薦している。特にウェンディーズの「ホームランドッグ」の、ソーセージがパンからはみ出すほど長さが、まさにホームランという名に値すると述べている。

また関東エリアでは西武球場が、湯煎して温めてあるソーセージをその場でパンに挟んでくれるというスタイルで、本場アメリカと同じ本来のホットドッグでいい線いっているとのコト。ただ調査した全14球場のうち6球場しかホットドッグが無かったそうだ。

そしてこの本の約半分のスペースを割いているのが「女子高生にもわかるプロ野球史」である。これは全5章立てとなっており、大正10年の日本初のプロ野球チームである「芝浦協会」から始まって、戦争中の暗い時代や2リーグ分裂、三原・水原対決、作者としては書くのもやだというジャイアンツV9時代、はたまた幻の「グローバルリーグ」などの話まで出てくる。

そして最後は1996年の「メイクドラマ」長嶋ジャイアンツと「仰木マジック」ブルーウェーブの日本シリーズまでの歴史が、「カネヤン」や「プロ野球ニュースの」豊田さんら伝説の選手や、正力松太郎オジサンやワンマン永田オジサン、「チミー」で有名な東映の大川のオッサンなどの人物も交えて、誰にでもわかるように書かれている。

その他には、1988年の「さよなら南海ホークス」、それを受ける形で「平成名物対決、福岡ダイエーホークス対オリックスブレーブス」、またベイスターズファンの作者の唱えるベイスターズとスワローズの「裏伝統戦」説など、プロ野球の面白さが色々な形で語られている。

ちなみにこの文庫の親本は「プロ野球の素」(1990年・マガジンハウス刊)で、こちらには1989年版のホットドッグ選手権(こちらではグリーンスタジアム神戸が第1位)や川崎、西宮、平和台の観戦記が載っている。

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