さよならをもう一度  〜Yukihiko Good bye again〜

(京都府・ふさ千明)

佐藤幸彦。
1968年4月16日生まれ。拓殖大学付属紅陵高校から1986年11月20日のドラフト会議でロッテオリオンズに4位で指名される。4位なのだが、広島東洋カープと競合しての獲得となった。この時、共に春夏連続で甲子園に出場した同窓の飯田哲也も同じく4位でヤクルトスワローズに入団。他の同期生には、既に引退した選手では阿波野秀幸、藤井康雄、西崎幸広、近藤真一らがいる。現在も現役の選手では高木晃次、デニー友利、山崎武司らが、そして同期で同時期に引退する選手として八木裕がいる。

幸彦と八木とは不思議なほどの共通点がある。内野手として入団し、その後外野手に転向して晩年は代打稼業。生涯1球団を貫き、そしてなによりファンに愛され、惜しまれて引退すること。以前、浦和で二軍戦を見ていたときに、たまたま古参ファンの方と話題に幸彦をのせたことがあったが、内野手としての守備力は「初芝以上堀以下」だったそうな。その微妙すぎる評価に私はかえって判断に苦しむことになったのだが、イースタンの優秀選手表彰を受けたこともあるのでそう悪くはなかったのだろう。

佐藤幸彦。
さほど個性的な名前ではない。だから応援などでも「幸彦」と名前で呼ばれていたくらいだが、「佐藤」は「鈴木」「田中」と並んで日本三大名字である。だからという訳ではないだろうが、入団当時佐藤和史、健一(兼伊知)、政夫らと佐藤カルテットを形成したこともある。トリオ・ザ・山内や田中幸雄コンビほどには有名ではなかったが、それでも資料で見たときのインパクトだけでもなかなかのものである。

さて、私の個人的な思い出としては、どうしても代打としてのものになってしまう。「狂い咲き」「確変」などと揶揄された絶頂期の1998年(フランコ、初 芝とともに3者連続ホームランや、記録あり)をほとんど見ていないせいかも知れないが。なので、私にとって幸彦はどうしても打の人なのである。しかし、決してそれは打つだけの人とイコールではない。

代打幸彦には長打も期待できたが、それよりも印象的だったのはここぞという場面で出てきたときの粘り強さだった。代打幸彦に対しては、一発長打を期待するよりもむしろ「なんとかしてくれるだろう」「ここで終わることはないだろう」という気持ちにさせられた。それは、粘って粘ってのフォアボールだったり懸命の走塁で内野ゴロを内野安打にしたり。

決勝ホームランや2打席連続ツーベースなど長打もたくさん目にしているはずなのに、印象に残っているのは絶体絶命の場面での幸彦の必死さだった。「ああ〜〜」という絶望の溜め息を「おおっ!」という驚きと喜びに変えてくれたのは、幸彦だった。

 

そんな幸彦が今年引退する。

 

今年はマリーンズになって初めて、消化試合がなかった。だから、言い出しにくかったのであろう。引退表明は最終戦直前。だから最後の打席もチームの最終戦、ビジターでのこと。しかも、1番ショートとしてスタメン出場。これはその後の展開をにらんでというよりも、むしろ内野手でスタートした幸彦に対するボビーの粋な計らいと解釈したい。その裏に守備につけないつもりだったら、どこで打たせても一緒なのだから。

この時は、同じく今シーズン限りで引退を表明している潮崎との対戦。このような対決もなかなか希有であろう。しかし、引退するもの同士とは言え、片や優勝経験豊富にしてBクラス経験無し。片や、優勝経験はなく、Aクラス経験はわずか1回。現役を退く際、胸に去来する思いはそれぞれに違って当たり前だが、この対決は両チームのこの十数年を象徴しているようで、何とも一言では言い切れない。

その、幸彦現役最後の打席にして潮崎現役最後のピッチングはと言えば。初球見逃しストライク、2球目ボールでカウント1−1からの3球目。幸彦の最後の打球は、打球スピードには定評のある彼らしく、名残を惜しむこともなく鋭いスピンでライトへと飛び、ライオンズの佐藤のグラブに収まった。スポーツニュースで潮崎の引退特集としてそのシーンを見た私は「いや、犠牲フライには十分な当たりだった」などと訳の分からない負け惜しみを口にしていた。

その後、ネットで幸彦胴上げの画像などを見ながら、その場に居合わせられなかったことの無念を噛み締めたりした。繰り返しになるが、皮肉なことに、例年に比べて良好なチーム状態のために、 幸彦とファンは本拠地でゆっくりお別れを言うこともできなかった。もちろん、ビジターながら最大の配慮をしてくれた西武ライオンズには大いに感謝したいが、やはり千葉マリンで「さよなら幸彦、今まで本当にありがとう。おつかれさま」と言わせて欲しい。

だから、ファン感謝デーでは何らかのセレモニーをしてもらいたいと切に願っている。そうしてもらえるだけの資格が幸彦にはあると思っているから。だから。さよならを、もう一度。

佐藤 幸彦
<通算成績>774試合 打率.253 31本塁打 191打点 1盗塁

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