『古武術に学ぶ身体操法』      

 ( 甲野善紀・著/岩波書店)

(岡山県・おぐらだいすけ)

それまでの枠にとらわれていた現代のスポーツに対して、新たな問題提起を投げかけてくれた武術研究家の最新刊である。

桑田真澄投手が昨シーズンからの新たな働きを見いだすことが出来たエッセンスが込められている。もっとも、技術的な面は余り語られてはいないが、身体的運用方法を語ることによって我々にも日常生活に応用できるヒントが鏤められている。

その中身はそれまで身体操法に拘らない「捻らず、うねらず、ためない」というのが端的な物である。詳細は中身を見ていただくとして、既存の現代トレーニングとはまるっきり違うことが見て取れる。

また、甲野氏の武術への姿勢にもなかなか興味深い物がある。武術自体のコーチングが他のスポーツと異なり、自ら手本を示すということもあるが、甲野氏の牽制の仕方はどのプロ野球の投手よりもモーションが速かったという。教える代わりにヒントを提示して、そのプロセスを自己の薬籠中の物にしていくという、所謂地図を提示するような物と言える。

このほかにも転び方を学ぶ必要性を喚起したり、学ぶという概念ではなく自ら取り組むという姿勢の必要性を訴えたりして、武術だけに止まらず教育の方法まで踏み込んでいて非常に興味深い。

岡山城東高校が、沖縄古武道を練習に取り入れていることもあり、野球とは全く関係ないであろう分野から何をかを掴めるかと思い、読み始めてみたがそれ以上の内容。少なくとも損はしない、別の方向から野球にアプローチ出来る格好の書との出会いだった。

戻る

inserted by FC2 system